東京高等裁判所 昭和34年(く)112号 決定
よつて本件記録を調査すると、抗告人は昭和二十八年三月十一日浦和地方裁判所において詐欺外国為替及び外国貿易管理法違反外国人登録法違反の罪により懲役一年及び罰金五万円、四年間懲役刑の執行を猶予する旨の判決を受け、右判決は控訴上告を経て昭和三十一年十一月九日確定したこと、及び右執行猶予の判決確定前、抗告人は昭和二十八年五月三十日東京地方裁判所において外国為替及び外国貿易管理法違反の罪により懲役三月及び罰金二万円の有罪判決を受け右判決は同年七月三日確定し、抗告人は即日右懲役刑の執行を受け同年十月三日その執行を終つたことが明らかである。
しかして刑法第二十六条第三号は、刑法第二十五条第二号に記載した者及び第二十六条の二第三号に当る者を除く外猶予の言渡前他の罪につき禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したときは刑の執行猶予の言渡を取り消すべきことを規定しているのであるが、同号(同条第二号もまた同じ)にいわゆる「猶予の言渡前」とは執行猶予の判決確定前を意味するものと解すべく、また同条第二号の取消事由と対比するときは、同条第二号は、執行猶予の判決確定後、右判決前に犯した他の罪につき禁錮以上の実刑に処する旨の判決が確定した場合に、後の有罪判決(実刑)があつたことを理由として先に確定した執行猶予の判決の執行猶予の言渡を取り消すべきことを規定したものであり、これに対し同条第三号の規定は、執行猶予の判決が確定した場合に、その以前に禁錮以上の実刑に処する旨の確定判決があつたことが発覚したときこれを理由として後に確定した猶行猶予の判決の執行猶予の言渡を取り消すべきものとした趣旨と解せられるのである。(尤も右執行猶予の判決確定当時において、先の禁錮以上の実刑判決が既にその執行を終りまたは執行の免除を得ており、執行終了または執行免除の日から五年以上を経過している場合は取消事由から除外されることは同号が第二十五条第一項第三号に記載した者を除くと規定していることから明らかである)
今本件についてこれを見ると、抗告人は昭和三十一年十一月九日前記執行猶予の判決が確定したものであるが、これより先き昭和二十八年七月三日前記懲役刑の実刑の判決が確定していた者であり、且つ当時その懲役刑の執行を終つた日から未だ五年を経過していないものであるから、刑法第二十六条第三号により右執行猶予の言渡を取り消すべき場合に該当するものと云わねばならない。
尤も前記のように、懲役刑(実刑)の判決確定の日は昭和二十八年七月三日であつて、本件執行猶予の判決確定の日は昭和三十一年十一月九日であり、当時既に先の懲役刑(実刑)の執行は終つていたものであるから執行猶予の判決確定前、既に検察官に懲役刑の実刑に処せられた事実は明白であり、執行猶予の判決確定後検察官に発覚したものではないからこの点において刑法第二十六条第三号に該当しないとの疑があるが、本件記録によれば右懲役刑(実刑)の判決確定当時前記詐欺外為替及び外国貿易管理法違反外国人登録法違反被告事件(即ち執行猶予の判決を受けた事件)は既に第一審の係属を離れ被告人(本件抗告人)のみの控訴により第二審たる東京高等裁判所に係属していたものであつて最早検察官より上訴の方法により執行猶予の判決を争う余地は閉されていたものであるから、このような場合は執行猶予の判決確定を待つて、検察官において懲役刑の実刑に処せられたことが発覚したものとして、執行猶予の取消を申立てる外はないものと云うべきである。
(坂井 山本長 荒川)